体重移動にショットを速くする効果はほぼない






今回の動画では、体重移動を使って球速を上げようとすべきではない理由について解説していきます。


「体重移動」という言葉は、大きく分けると次の2種類の意味で使用されています。

1つめは、「後ろの足に乗っていた体重が前の足に移動する」という意味です。

2つめは、「体全体が前に動く」という意味です。

その他の意味で使われることもあるかもしれませんが、珍しいケースだと思いますのでそれについては除外し、これら2つの意味について考えていきます。


足から足への体重移動

最初に、「後ろの足に乗っていた体重が前の足に移動する」という意味での体重移動について考えていきます。 


この意味での体重移動に実際に効果があるとしたら、後ろの足に全体重を乗せた状態から前の足に全体重を移し替えるのが、それを最大限使っていることになるはずです。

極端に言えば、このような動きでも最大限体重移動を行っていることになります。

ですが、この動きには球速を上げられる物理学的な要素がなにもありません。
ショットを速くするにはスイング速度を上げる必要がありますが、この動きをしたところでスイングを速くすることはできません。



また、スキップステップやジャックナイフと呼ばれる打ち方などでは、前の足で跳んで、前の足で着地しますが、それでも速いショットを打てますし、この意味での「体重移動」に、球速を上げる直接的な効果は全くないと言えます。



スイングするために必要な、上半身を回したり、腕を振ったりする動きを行えば、足から足への体重移動は起きるため、一応間接的には球速と関係していると言えますが、ほとんど何をしても多少は体重移動が起きますし、わざわざ体重移動の話を持ち出すメリットがありません。


ということで、こちらの意味の体重移動で球速が上がるというのは完全な間違いだと言えます。



体全体が前に動く体重移動

次に、「体全体が前に動く」という意味での体重移動について本当に効果があるのかを考えていきます。


誤解されていることが多いですが、前に動きながら打っても、「体全体の運動エネルギーがショットに生かせたり」、「ラケットが自分の体重の分、重くなったり」ということは物理学的にあり得ません。

本当の効果は、自分の体全体が移動した分の直線運動がラケットの動きに加わることです。

さきほどの足から足への体重移動とは違い、こちらには一応ショットを速くする効果はあり、インパクト時に体が前に動く速度が速いほど、効果は大きくなります。

ただし、全力で走ったところで、その効果はわずかになります。



実際に、前に走ることだけでボールをどれだけ飛ばせるか確かめてみればそのことが分かります。

腕や手首は固定して使わないようにして、走ってボールにぶつかっていくと、ボールは少ししか前に飛びません。
球速を上げる効果はその程度しかないということです。


さらに、体の速度方向が打ちたい方向とズレるほど、球速を上げる効果は少なくなってしまい、90度以上方向がズレるとその効果はゼロになってしまいます。

左右方向だけでなく、上下方向にズレても同様に効果が減っていくことになります。

体の速度方向と打ちたい方向はズレるのが普通ですので、実際に球速を上げる効果は更に小さいものとなります。


速く走るには助走が必要

移動速度が大きいほどショットを速くする効果は大きくなりますが、速度を最大にするためには、40m程度は助走を取る必要があります。

しかし、ネットからベースラインまでは、12m程度しかありませんので、本当にできるだけ速い速度で前に動くのであれば、一度後ろに下がってから前に動き出さなくてはなりません。


また、止まった状態から一歩動いた程度では、どうやっても速く移動することはできません。
動き出す時には、最も加速度が大きくなるため速く移動していると錯覚しやすいですが、実際の速度は遅くなります。

「クローズドスタンスのストロークや足を寄せるサーブでは、体重移動を使って速いショットが打てる」とよく言われていますが、そもそも、止まった状態からでは大した速度を出せないため、最大限速く前へ動こうとした所で、球速を上げる効果はほとんど期待できません。


なお、体の加速度とショットの速度には直接関係はなく、インパクト時における体の速度が同じなら加速中、減速中のどちらでもボールに与える影響は同じになります。


プロは、前に速く動きながら打とうとしているか

プロ選手は積極的にインパクト時の体の移動速度を上げようとしているのでしょうか?
プロの試合をしっかりと見れば、そのようなことはしていないのは明らかです。


ベースライン近くの深い位置で打つ時は、どのスタンスで打つ時であっても前へ速く動きながら打とうとすることは、まずありません。

なお、見ても分からないような一瞬だけ移動速度をあげているのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、慣性の法則により、体は一度速く動いたらそのままの速度で動き続けようとしますので、それはあり得ません。

本当に速く動いていたとしたら、打ち終わった後も速く動き続けるか、スライディングを使うなどして、減速を行っている様子が見られるはずです。



浅いショットを打ち返すときには、前に速く移動しながら打つことはありますが、それは、より前の方で打つためにそのようにする必要があった場合だけです。

その証拠に、時間的に余裕がある場合では、減速してから打っています。

移動速度を上げたいのであれば、一度下がってより長く助走距離をとってから前へ走りこむことが必要ですが、そんなことをしている選手はおりません。
それどころか、ギリギリまでその場に留まって、そこから全力で走り出し、インパクト時の移動速度を速くしようとしている選手すらもいないはずです。


前に速く動きながら打つデメリット

少ないとはいえ球速を上げる効果があるなら、なぜプロは積極的に前に速く動いてショットを速くしようとしないのかと言うと、デメリットの方がこのメリットよりもはるかに大きいためです。


前に速く動くことによる主なデメリットは4つあります。

1.ボールとの距離やタイミングが合わせにくくなる
体を前に動かすという事は、当然、ボールとの距離を合わすことや、ボールを打つタイミングを計ることとも直接関係しています。
前進する速度を無理に上げようとするとこれらを犠牲にせざるを得なくなります。


2.体力を無駄に消費する
長い距離を全力で走っても大して球速を上げる効果は無いため、エネルギーの効率が非常に悪く、体力を無駄に消耗することになります。


3.次のポジショニングに悪影響が出る場合がある
速く走るほど止まりきるのに長い時間がかかってしまうため、打ち終わった後のポジショニングに悪影響が出る場合があります。


4.球速の面でもトータルで見るとマイナスになりやすい
体を前進させること自体には、ショットの球速を上げる効果が多少ありますが、体を速く前に動かすことに集中すると、球速が下がってしまう要因となることが起きやすくなります。

その要因とは、「ボールとの距離を合わせにくくなるためスイートスポットを外してしまうこと」、「タイミングが合わせにくくなるため最もスイングスピードが出ている所で当てられないこと」
などです。

多少あるプラスの効果もこれらによるマイナスの効果に簡単に打ち消されてしまい、トータルで見れば球速の面でも結局マイナスになりやすいです。



動きながら打つこと自体はいけないことではなく、例えば、より前の立ち位置から打つためにある程度速く動きながら打つ分などには問題ありませんが、球速を上げるために、できるだけ速く動こうとするのは、デメリットの方が大きいのでやめるべきです。