下回転(アンダースピン)の特徴 メリット・デメリット





 


今回の動画では下回転の性質について解説していきます。下回転とは、ボールの下部が進行方向に対して前に動いていく回転のことを指します。下回転と同じ意味で、逆回転、アンダースピンといった言葉も使われることがあります。フォアハンドスライス、バックハンドスライス、ドロップショットなどが下回転をかけるショットになります。


空中での変化

空中では、下回転のかかったショットは、(地面と水平方向に)減速しにくくなります。

フラットやトップスピンでのショットは、もっと減速が大きいため、それらとの比較で、あたかも加速しているように感じる効果があります。(実際には、速度が上がることはありません。)


下回転を多くかけるほど軌道の頂点が手前の方になります。



誤解されている事が多いのですが、下回転には、トップスピンのようにボールの軌道を下に曲げて、ネットしにくくできる効果は一切ありません。
それどころか、ベルヌーイの定理、マグヌス効果により揚力が発生するため、同じ速度であればフラットよりも落下速度が遅くなり、軌道がさらに直線的になり、ネットしやすくなります。

それでも、フラットで打つ時よりもミスを減らせるのは、球速を「遅くできる」からです。遅い球なので、空中にいる時間が長く、その分重力の影響を大きく受けることになり、結果として、軌道もフラットに比べ曲線的になり、ミスを減らす事ができます。

遅くできるというのには2つの意味があり、1つ目はフラットよりも物理的に遅くできるという意味です。

回転をかけるほど、回転にエネルギーを取られることになるので、全力で打っても球速を落とせます。


2つ目は、相手が攻めにくいから遅くできるという意味です。

下回転をかけるとショットはバウンド後に高くまで弾みにくくなり、相手は低い打点で打たざる負えなくなりますが、打点が低いほど、相手は攻撃的なショットを打ちにくくなります。

高く弾む遅いボールは、単なるチャンスボールとなってしまいやすいですが、下回転の場合、軌道が低いので、遅い球を打っても相手は簡単には攻め込めませ


バウンド時の変化


理論上の理想的な条件では、回転がかかっていない場合バウンド時の入射角と反射角は等しくなりますが、下回転をかけると反射角の方が小さくなり、軌道が少し高くなることになります。(実際には、この変化はそこまで大きくないのでほとんど体感できません。)

下回転を多くかけたショットはバウンド後にあまり高く弾まないため、バウンドした瞬間に軌道を低くする効果(入射角よりも反射角を大きくする効果)があると勘違いしやすいですが、高くまで弾まないのは、空中における変化の影響で入射角が大きくなるためであって、バウンドしている瞬間には逆に、軌道を高くする変化が起きています。



また、ボールを(地面と水平方向に)減速させる効果もあります。

このため、「下回転をかけすぎるとバウンド時に減速しすぎて、相手が返しやすくなるので回転はかけすぎないように」と言われることも多いようですが、テニス通では、この考えには反対しています。

球速が遅い場合は、バウンド時に明らかに減速し、場合によっては、ボールを打った人の方に戻っていくことさえもありますが、球速が速くなるほど、バウンド時の減速の影響は小さくなり、ある程度スピードがあると、体感では分からないほどのわずかな減速にしかなりません。

また、回転を減らせばその分、下回転のショットを打ちにくくしている他の効果も当然減ることになってしまいますので、球速が同じだとすると基本的には下回転は多いほうが有効なショットになると考えられます。



 



メリットとデメリット

メリット

○打ち返すときに下方向へ軌道が変化します。
下回転を強くかけたショットは、フラットのショットを返す時と比較し、ボールが飛んでいく方向が下方向に変化するため、慣れていないと、かなりネットしやすくなります。
しかし、ネットから離れた高い所を通す軌道で返そうとすれば、想定より返球の方向が下に曲がってしまってもミスをすることはありませんし、下回転に慣れている相手であれば、そこまで苦戦はしてくれません。


〇相手に低い打点で打たせられます。
バウンドした後に高くまで弾みにくいため、相手に低い打点で打たせられ、相手は攻め込みにくくなります。


デメリット

〇(地面と水平方向の)速度が下がります。
回転にエネルギーを取られる分、フラットと比較すると速度は下がります。また、バックハンドスライスなどでは、トップスピンのストロークよりもスイングスピードが遅いため、球速が遅くなります。これは、回転自体の特徴ではなく、打ち方の違いが原因になります。

速度が遅いということは、前の方に立っている相手の横を抜くことは難しくなりますので、パッシングショットには向いていません。また、ネット前に相手がいることが多いダブルスでは、スライスショットは使い道がかなり限定されます。


〇低い位置から打つ時には出せる速度に限界があります。
軌道を下に曲げる効果のあるトップスピンをかけたショットであれば、ネットより低い位置から打つ時でも、理論上ではいくら速度を出しても回転量も上げることでコート内に収められますが、下回転の場合は、回転を増やしてももっと直線的な軌道になってしまうため、出せる速度の限界が決まっています。


○相手がネット付近にいる時にスライスロブで上を抜いても、トップスピンロブと比較して遅いため、追いつかれる可能性が高いです。

下回転の攻撃力

すでにテニス経験の長い方でしたら、格上の選手が打つ下回転の大量にかかったショットを返した時に、マトモに返すことができなかったという経験があると思います。
この経験から、下回転のかかったショットを磨けば、相手が届いているのに返せないようなショットになると誤解しやすいですが、ミスが多くなってしまった原因の大部分は「慣れていないこと」によるものであり、実際にはそこまでの攻撃力はありません。

たしかに、減速しにくかったり、打った時に想定より下の方に返ってしまい、ネットしやすくなったりする効果があるため、最初は打ちにくく感じますが、同じような球を何度も受けて慣れていくにつれ、それらによるミスはほとんど無くなっていきます。


また、速度が遅くなる分、相手から追いつかれやすくなりますし、単純な攻撃力では、フラットのショットに劣ります。攻撃面での過度な期待はしない方が良いでしょう。


下回転の活用例

○時間稼ぎ
下回転は、球速を遅くしても打ち込まれにくくなるので、コートの外に追い出された時など、自分のポジションを戻す時間が欲しい時の時間稼ぎに使えます。


〇ペースチェンジ
速いトップスピンストロークを打った後に、速度の遅いスライスを混ぜる事により、ペースを変えられます。一定の速度でのラリーが続くと相手は、こちらのショットに慣れてしまい、安定して返球しやすくなりますが、ペースを変える事により、相手の感覚を狂わせ、甘いショットを誘う効果が期待できます。


○浅いドロップ
バウンド時に減速する効果を利用し、バウンド後に相手の方にあまり進まない浅いドロップショットを打てます。


〇バックハンドスライスでのアプローチ
バックハンドスライスは、浅めに来たボールを打ってから前に詰めるアプローチショットとして使えます。
甘いショットではボレーで決められてしまうというプレッシャーをかけることができれば、相手はパッシングショットを狙う際、ネットに近い、低い軌道のショットを打たざる負えなくなりますが、そうすれば、下回転の、打球時に軌道を下に変化させる効果が活きて、相手がミスをしてくれることも増えます。

ただ、バックハンドスライスでは球速をあまり速くできないため、一打目は追いつかれるのが前提になります。

回転量が少ないトップスピンストロークの方が、相手に追いつかれにくく一打で決められる可能性が高いため、高い打点から打ち込めるときなど、トップスピンで決めきれそうな場面であれば、トップスピンを使った方が有効であることが多いです。

バックハンドスライスでのアプローチは、トップスピンでも一打で決められないような時に使うのが基本になります。


なお、フォアハンドスライスは、プロレベルで、アプローチショットに使うことはほとんどなく、フォアハンドスライスでのアプローチは基本的にオススメしません。