足を止めて打つ意識が上半身をブレさせ、ミスを増やす




「なるべく足を止めてから打つように」というアドバイスがよく使われますが、このような意識は持たない方が良いというのが、当サイトの考えです。

自然に止まれるような時なら、止まって打っていいのですが、速く走らされた時にまで無理に止まって打とうとする必要はありません。

 

 

止まって打っても安定性はあまり上がらない

そもそも、止まって打つ事ことにより、安定性が上がる効果は、一般的に信じられているよりはるかに低く、無理をしてまで止まろうとする必要はありません。その根拠の一つは、プロが余裕がある時でも、フォアハンドを動きながら打つ事にあります。

プロの場合、バックハンドのトップスピンは余裕があれば、止まって打っていますが、フォアハンドはそうではありません。フォアハンドでは、余裕がある時は、足の力も使って打つのですが、その場合、ヒザを曲げた状態で一度は止まるもの、その後、ヒザを伸ばし、インパクトを向かえるのは、体が動いている時になります。

 「錦織選手の足の力を使ったフォアハンドで上半身の傾き、頭の位置が変化していく様子」(7:11:27~7:11:43)
オーストラリアオープン公式チャンネルより 2015年 錦織圭対ダビド・フェレール戦
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スイングをするときに、体を止めて、「上半身(軸)の傾き」、「頭の位置」が動かない事が、ミスを減らすコツだとよく言われるのですが、上の動画を見て頂ければ、上半身の傾き、頭の位置もかなり大きく変化している事が分かります。

フォアハンドストロークで足の力を使うには、体の傾き、頭の位置を変えながら打つ事が必須であるため、これはどの選手でも同じです。



単純にコントロールだけの面で見れば、止まった状態で打った方が多少は良いハズです。しかし、足の力を使い、スイングスピードを上げることができるのであれば、動きながらになってしまっても、そちらを取った方がメリットがあるという事です。

言い換えれれば、止まることにより安定性を上げる効果は、ショットの威力を上げる効果を捨ててまで選ぶ程の価値はない、小さいものだと言えます。








上半身がブレることが安定性を大きく下げる

動きながら打つ事よりもはるかに大きな問題なのは、上半身がブレながら打ってしまう事です。ブレるという事は、体が予測できない不規則な動きをすることになります。

フォワードスイングが始まった時点で、スイングの軌道は、もう決まっており、基本的にラケットの軌道を途中で変える事はできません。

フォワードスイングが始まってからラケットにボールが当たるまでには、時間があるので、テニス選手は相手のショットの軌道と自分の体の動きを先に予想してスイング軌道を決めています。上半身がブレると、この予想がズレてしまうのでミスが増える事になります。

逆に毎回一定の動き、一定の速さで変化するのであれば、体の傾き、頭位置が変わりながら打っても、正確な予測を立てる事が可能で、安定性はほとんど下がりません

走っている間は、急激に速度が変わる事がなく、自分の動きをしかっりと予測する事ができるので、それだけでは、そこまでミスは増えません。

しかし、「なるべく足を止めてから打つように」と意識して、走っている体を止めてから打とうとすると安定性が大きく下がってしまいます。

走っている体を急激に止めるには、地面と足との摩擦を使うしかありません。その際、まず足が先に止まる事になりますが、上半身は慣性の法則によりそのまま動こうとするため、体がつんのめる形になり、上半身がブレて、それがミスを増やす原因となります。




全てのショットを止まり切ってから打つのは不可能

たしかに、動きながら打つより、止まって打った方が安定性は少し上がると考えられますが、それは「しっかりと止まり切れたら」の話です。

速く動いているほど、止まり切るのに時間がかかるので、遠くまで振られて、全力で走ってボールを取りに行った場合などには、止まり切るまでに相当な時間が必要です。

どんなショットにも完全に止まり切ってから打つというのは、現実的には不可能です。相手のコースが良く、走らされた場合は、「完全に止まり切る」という選択肢は存在せず、「ブレーキをかけず、動いたまま打つ」か「ブレーキをかけ、体がブレた状態で打つ」かの2択しかありません。

そして、ブレーキをかけ、体がブレてしまうより、動いたまま打った方がはるかに安定性が高いです。



当サイトの考えでは、意識して止まって打った方が良い状況は基本的にありません。足で意識的にブレーキをかけなければ止まれない状況であれば、打ち終わった後に止まるようし、打つ前には、むしろ、なるべく足でブレーキをかけないように意識する必要があります。


しかし、ただ単に練習を重ねるだけでは、中々動きながらでも安定して打てるようにはなりませんので、それができるフットワークパターンを習得していく必要があります。

具体的なフットワークについては、また他の記事で紹介予定です。



今回の重要ポイント 

○「なるべく足を止めてから打つように」という意識は持たない方が良い。

○動きながら打っても、止まって打っても安定性は、大きくは変わらない。

○上半身がブレる事が安定性を大きく下げる原因。体がブレると、自分の動きが予想とは変わってしまい、それがミスにつながる。

○どんなショットにも完全に止まり切ってから打つというのは、不可能。無理に止まり切ろうとして体がブレてしまうより、動いたまま打った方がはるかに安定性が高い。

○意識して止まってから打った方が良い状況は基本的にない。

○動きながら打つ時は、インパクトまでなるべく足でブレーキをかけないようにする事が大事。