フォアハンドストロークの基本 腕、手首の使い方

 



「フォアハンドストローク基礎」解説動画




今回の動画では、フォアハンドストロークの打ち方の基礎部分について解説していきます。


広い意味では、一度バウンドした後に打つショットを全てストロークと呼ぶこともあるのですが、多くの場合、単に「ストローク」と言うと、その中でもトップスピンをかけるショットのことを指し、今回はこれについて説明しています。

現代のテニスでは、フォアハンド側にボールが来た時は、トップスピンをかけたストロークで返すことが基本になっており、プロレベルでは、厳しい体勢の時を除いては、フォアハンドで下回転をかけて返すことはほとんどありません。


まずは、トップスピンを多くして打つべき

トップスピンを多くすることには、メリットだけではなく、デメリットもあるため、多ければ多いほど良いというものでもなく、上級者は状況に応じてかける量をコントロールしています。

しかし、初心者がいきなりそれをやることは難しいですし、最初に回転がかからない打ち方を練習すると正しい打ち方とは根本的に違う打ち方になってしまう可能性が高いため、まずはトップスピンを多めにかけたショットを練習していくべきです。

回転量の少ないフラット気味なショットは、トップスピンの多いショットをある程度安定して打てるようになってから挑戦するようにしてください。

なお、トップスピンとフラット、それぞれのメリットとデメリットについては、他の動画ですでに解説しております。概要欄にリンクが貼ってあるので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。


フォアハンドストロークのスタンス

フォアハンドストロークでは、余裕がある時であれば、オープン気味のスタンスで構えるのが基本になります。
テニススクールなどでは、何故か最初にクローズドスタンスを教えたがるのですが難易度も特に変わりませんし、最初からオープン気味のスタンスにすることをオススメします。

「クローズドスタンスでは、体重移動や踏み込み」によりショットを速くできると言われることが多いですが、これらは明らかな間違いで、そのような効果はありません。
しかし、オープン気味のスタンスでは、足で地面を蹴ることにより、体の回転を速くすることができるのでショットが速くなるため、クローズドスタンスよりも優れています。
いきなり足の力も使おうとするのは難しいので、最初は使おうとしない方が良いですが、上級レベルまで目指すならいつかはオープン気味のスタンスで足の力を生かしたフォアハンドも習得する必要があります。


クローズドスタンスも全く使わない訳ではなく、相手からのショットがやや浅かった場合などに用いられます。
なお、「クローズドスタンスでは、打ちたい方向に踏み込むように」と言われることがあるようですが、これをやると打ちにくくなるうえ、相手にこれから打つコースを教えることになるため、デメリットしかありませんので、このようなアドバイスには従わないようにしてください。


ラケットの握り方

ストロークでは、コンチネンタルグリップを使ってはいけません。

コンチネンタルグリップは、サーブ、ボレーなどで用いられるグリップです。包丁を握るようにラケットを持つとコンチネンタルグリップの厚さになります。

フォアハンドストロークをコンチネンタルグリップで打つようにしていると、サーブやボレーの時と握り方を変える必要がなくなり、簡単なのですが、この握り方だとトップスピンを多くかけて強打する事がほぼ不可能になります。(握り変える時間が無い場合には、コンチネンタルグリップで、ストロークを打つ場面もありますが、時間のある時は必ず握り変える必要があります。)

最初は難しく感じるかもしれませんが、ショットに応じて握り方を変えていくというのは、上のレベルを目指していくには必須になりますので、初めの内からしっかりと行うようにしてください。

ストロークの握りかたは、コンチネンタルグリップよりも厚くする必要があります。厚くするとは、右利きの場合、手をそのままにしてラケットを反時計回りの方向にずらすことです。

ただ、どの程度厚くするかはプロ選手の中でもかなり違いがあり、イースタングリップと呼ばれる薄めのグリップくらいから、エクストリームウェスタンと言われるかなり厚いグリップまで使われています。トッププロの中では、例えば、ロジャー・フェデラー選手は薄めのグリップを使用していますし、錦織圭選手はかなり厚めのグリップを使用しています。

基本的には、グリップが厚いほどかけられるトップスピンの量が増え、その代わり速度が下がることになります。

厚さに関しては絶対的な正解と言うのはありませんが、スイングスピードを出せるようにならないと、厚いグリップの良さを生かせないため、まずは、イースタン程度の薄めのグリップを使うことをおススメしています。

コンチネンタルグリップでは、握った時に親指と人差し指の間にある溝のV字の頂点がグリップの角と同じくらいの位置になるはずです。
ラケットを反時計回りに回してこの一つ右の角にv字の頂点が合うようにするとイースタングリップの厚さになります。


イースタングリップのまま、上級レベルを目指すこともできますし、スイングスピードが上がってきてから厚いグリップに変えていくこともできます。


どの厚さで握る場合でも、中指と人指し指の間を空けることが必要です。

人差し指から小指までが密着した握り方にはならないようにしてください。


手首の動き

ストロークにおける手首の動きは、大きく分けて「反時計回りの回転」と「前後の回転」の2種類です。
これら2つの動きのメカニズムについて解説していきます。


まずは「反時計回りの回転」のメカニズムについて説明します。

ストロークでは、ラケットが体の前で車のワイパーのように反時計回りの回転をする動きが起こります。これには、ショットのトップスピン量を増やす役割があります。

この動きを作るために「手首の回内動作を意識的に使うように」とアドバイスされる事が多いですが、それは明らかな間違いです。

回内動作とは、うちわを仰ぐ時に使う動きと同じです。

確かに、一見すると、ストロークでは、回内動作をしているようにも見えます。

しかし、腕を体の前で回転させてみてください。手首(回内)をリラックスさせておけば、腕と一緒に自然と手の向きが変わっていくはずです。

これと同じ事が実際のスイング中にも起こっていて、肩を中心に回転する腕に、単に手の向きがついていくことにより、ラケットの反時計回りの回転が生み出されています。ですので、反時計回りの回転は、本当は、手首ではなく、肩の回転により作られていると言えます。

意識的に回内動作を使った場合、安定しないスイングになってしまいますので、回内させようとはしないでください。

なお、回内の筋肉を使い、手の向きを固定させて腕を回転させると、ラケットのワイパーのような動きが起きなくなってしまいますので、リラックスさせておく必要があります。



次に手首の「前後の回転」のメカニズムについて解説していきます。

まず、実際のスイングではなく、もっとシンプルな例を見ていきます。手首をリラックスさせた状態で腕を前に動かし、途中で腕を止めると「勝手に」手首が前後に回転することになります。

なぜ、手首を意識的に動かしていないのに、回転するかというと、これは、「慣性の法則」による影響のためです。慣性の法則とは、ある物体が外からの力を受けないとき、その物体は、そのままの運動状態を続けようとする法則のことです。止まっている物体に、力を加えなければ、止まったままですし、動いている物体に、力を加えなければ、そのまま動き続けようとします。

腕を前に動かし始めた時、手首を固定していなければ指先側までは力が伝わらず、慣性の法則により指先側はその場に留まろうとします。しかし、手首の付け根側は、腕とつながっているため、強制的に前に動かされます。結果として、「手が後ろに回転する」ことになります。

ただ、手首の曲がる角度には、限界があるので、曲がり切った後は、腕について前に動きだします。

この後で、腕を止めようとすると、手首の付け根側は強制的に減速させられます。しかし、慣性の法則により指先側は動き続けようとします。ですので、今度は、手が前に回転しだします。

今度は、手が前に回転しだします。
これが手首が前後に回転するメカニズムになります。

なお、実際のスイングでは、このように急に腕が止まるのではなく、腕の回転方向が徐々に変化していくことで自然と前方向の速度が下がるため、手首が前に動き出すことになります。

ショットの速度を上げるのに最も重要なのは、この、手首の前方向への回転速度になります。運動連鎖により腕だけではなく、上半身の回転や足のエネルギーも活かせるようになり、手首の回転速度を速くできると格段にショットの速度が上がっていきます。

ショットの速度を上げるために「ボールに体重を乗せること」、「インパクト時に(筋力で直接)ボールを押すこと」、「体重移動の力を利用すること」などが必要と言われることが多いですが、これらは非科学的で、実践しようとしてもショットのスピードは上がりませんので、やろうとしないようにしてください。


手首の筋肉を緊張させて固定してしまうと、腕と手が一緒に動いてしまい、手首の前後の回転がおきませんので手首はリラックスさせておく必要があります。
ラケットを強く握りながらですと、手首をリラックスさせることはできませんので強く握らないようにすることも必要です。

ラケットを弱く握っていると、ラケットが飛んでいきそうな気がしてしまいますが、そう簡単には手から離れませんので安心してください。意識としては、必要最低限の力でラケットを握るようにしてみてください。


手首の「反時計回りの回転」と「前後の回転」のどちらも手首をリラックスさせておけば、自然と起こるものです。
ですので、手首は意識的に使う事はなく、リラックスさせておくだけとなります。


腕の動かし方

トップスピンをかけるためには、ラケットでボールを下から上にこすり上げるような動きが必要になりますが、そのために、スイングを開始する位置は、インパクト時の手の位置よりも左下にしておかなくてはなりません。
(手をセットする位置はボールを打つ高さやかけたい回転の量によっても変わってきますが、それについて詳しくは、また他の動画で解説していきます。)

この位置からインパクト時の手の位置まで、右斜め上前方へ一気に腕を振るようにします。そうすると、ボールをこすり上げる動きが生まれ、トップスピンをかけられます。

手を振っていく方向は意識の上では一方向であり、(テイクバックを除く)スイング開始からインパクトまで、途中で意識的にスイングの軌道を変えてはいけません。

実際には、途中で軌道が変わることになりますが、人体の構造上そうなるに過ぎません。正しいスイングは、色々と細かい操作をしているように見えてしまいますが、実際には、流れに逆らわず肩を自然に回転させ続けるだけでできます。
ラケット面を途中で意識的に変えるなどの操作を加えようとすると、スイングが不安定になってしまいます。


よく、「ボールを潰してからこすり上げるように」、「打点でラケットを振り上げるように」など「インパクトの最中に意図的にラケット軌道を変えることを勧める」アドバイスを聞きますが、これらには従うべきではありません。

ボールとラケットの接触時間はわずか1000分の4秒程度しかありませんので、インパクトの最中に意識的に何かをするというのは人間の能力では不可能です。無理にやろうとしても、ラケットの動きが途中で急激に変わり、ショットが不安定になってしまうだけになります。


なお、フォームが正しくできているかを確認するためには、動画を撮影するのが最も有効です。通常の動画でもある程度は正しいフォームができているのか確認できますが、速すぎて分かりにくい場合もあるかと思います。
そのような場合は、スローモーション撮影を行えばより正確な確認が可能になります。



次に、打ち終わった後の手の位置について解説していきます。

一般的にテニススクールなどでは、「左肩の上に手が乗るように」などと教わる事が多いと思いますが、これはかなり古い打ち方で、現代のプロ選手でこのように打つ選手はまずいません。

現在では、左肩の上ではなく、下で終わるのが基本となっています。
(左肩の上で終わる場合が全く無い訳でもありませんが、通常は左肩の下で終わります。)


上級者では、余裕があるときは体を180度近くまで回転させて打つことが多いのですが、スイングが縦振りになる肩の上に手が乗って終わる打ち方では、その体の回転でスイング速度を効率的に上げることができません。

初心者の場合は、そこまで体を回転させて打つ事はできませんので肩の上で終わってもあまり問題ないのですが、速いショットを打てるようになることを目指すならいつかは肩の下で終わる打ち方に変えていく必要があります。

「肩の上で終わる打ち方の方が習得しやすい」と言われているようですが実際に検証した人はおそらくおらず根拠がないですし、わざわざ一度肩の上で終える打ち方を覚えてから途中で肩の下で終える打ち方に変えるのは効率が悪いため、最初の内から肩の下で終えるようにしておくことをオススメします


インパクト時のラケット面の向きとラケットの傾き

どのショットでもインパクト時のラケット面の向いている方向がボールの飛んでいく方向と大体同じになりますので、打ちたい方向にラケット面が向いているようにします。

ただし、正しいスイングでは、ラケット面の向きはスイング中に変わり続けますので、打ちたい方向に向けるのはインパクトの瞬間だけです。初心者の方はできるだけ長くラケット面を打ちたい方向に向けておきたくなるかと思いますが、それでは正しいスイングにならないのでご注意ください。


基本的に、インパクト時にガットの横糸と平行の向きがボールの回転方向と大体同じになりますので、トップスピンをかけたいストロークでは、ラケットが地面と平行に近くなるようにします。(完全に平行にする必要はありません。)
ボールが空中で横に大きく曲がってしまう場合は、ラケットが地面と垂直に近くなってしまっているために、横回転がかかっている可能性が高いです。(上級者はあえて横回転を多くかけることもありますが、まずは横回転の少ない打ち方を習得する方がオススメです。




テイクバックのやり方

テイクバックとは、フォアハンドとバックハンドのどちらにもすぐにいけるように中立的に構えた状態から、先ほど紹介したスイングを開始する位置までの手の移動方法と言えます。

単純に考えると最短距離で手を移動させるのが、一番時間がかからず、効率的な気がしてしまいますが、プロレベルで、そのようなテイクバックをする選手はごくわずかです。

プロレベルではほとんどの選手がループ型と呼ばれる、手で円を描くような動きのテイクバックを使っています。(ただし、時間が無いときは普段ループ型のテイクバックをしている選手もテイクバックを省略して打つ事があります。)

ループ型の方が手の助走距離が長くなる分、スイング速度が少し増すと考えられます。ですので、ループ型のテイクバックを使うようにしてください。

なお、腕を本気で振り始めるのは、先ほど紹介した「スイングを開始する位置」からになり、テイクバック中は全力で腕を振る訳ではありません。


プロレベルでも、人によってテイクバックの細かいやり方はかなり違いますので、あまり細かいことは気にする必要はありません。


ル-プ型テイクバックをする上で重要なのは次の2つのポイントです。
1つ目は、ループを大きくしすぎないようにすることです。ループが大きいとテイクバックに時間がかかりすぎてしまいますので、ループはある程度コンパクトにする必要があります。 

2つ目は、ループを途中で止めないようにすることです。途中で止めてしまうと、助走の効果が消えてしまい、ループの意味が無くなってしまいます。止まることなくスムーズにスイングを行うようにしてください。