運動連鎖とは ショットの威力を上げる方法


当サイトの見解では、ショットの威力を上げるために、「体重移動の力を使う」、「ボールに体重を乗せる」といった考えは全く必要ありません。威力の向上に必要なのは、効率的な「運動連鎖」を行うことです。

運動連鎖とは、運動エネルギーが伝達、加算されていき、目的の場所まで伝わり、その場所の運動エネルギーを大きくできるという原理のことです。

ショットの威力を決める最も重要な要素は、ラケットのスピードで、運動連鎖の効率を高め、いかに多くの運動エネルギーをラケットまで伝えられるかが強力なショットを打つためのカギになります。(運動エネルギーは、「速度の2乗」に比例するので、同じ物体であれば、物体の速度が速いほど、運動エネルギーが大きいことになります。)

ジュニアの選手では、小さい体でもかなり威力のあるショットの打てる選手が多いです。日々のテニス練習で鍛えられているとは言え、大人と比較すれば、彼らの筋力はそこまで高くありません。単純な筋力比べで勝負したら、あまり運動をしていない大人でも負ける事はまずないでしょう。では何故ジュニア選手のショットが強いかというと、彼らは、体の使い方が上手く、多くの部位の筋力をショットに活かす事ができているからです。

初心者であれば、1か所、2か所の筋力くらいしかショットに活かす事ができませんが、上級者であれば運動連鎖により、もっと多くの筋力をショットに活かす事ができます。さらに、運動連鎖により活かせるようになる足や体幹の筋力は、腕、手首等と比較して格段に大きく、より大きな運動エネルギーを生み出す事ができますので、腕の筋力くらいしか活かせていない大人よりもジュニア選手の方が強力ショットを打てる訳です。

効率的な運動連鎖ができると、体がムチのようなしなやかな動きになります。フォームを見た目だけでも、ある程度運動連鎖の良し悪しが判断できます。テニス初心者の方達であっても、よく見れば体のエネルギーが上手く使えている人そうでない人の違いはなんとなく分かるかと思います。

 

フォアハンドストロークでの運動連鎖の具体例

具体的にどのように運動連鎖が起きているのか、フォアハンドストロークを例にとってその流れを見ていきましょう。このショットでは、最終的に速くしたい目的の部位は手首(回内を含む)になりなります。

まず足でエネルギーを生み出し、それが上半身、腕、手首と順番に伝わっていきます。

足→上半身→腕→手首


具体的に各部位がどういう動作を取っているかというと、

1.足を伸ばすことにより、上半身が押し出され回転する。

2.上半身に引っ張られ、腕が前に動。

3.腕に引っ張られ、手首が回転する。

このように足から順番にエネルギーは伝わっていきます。この事は、足から上半身にいくらエネルギーを伝える事ができても、その後の腕から手首で、エネルギーを伝えられなけば、結局足からのエネルギーは伝わらないという事も意味します。

ですので、最終的に速くしたい場所から近い運動連鎖から習得していくべきというのが当サイトの考え方です。

フォアハンドストロークで言うと、まず腕から手首への運動連鎖を優先して習得し、それができたら上半身から腕への連鎖を習得、最後に足から上半身の連鎖を習得し、足から手首まで運動連鎖が完成するという手順になります。



新たにエネルギーを加える場所と加えない場所がある

運動連鎖では、ただ単に最初に発生させたエネルギーを伝えていくだけではなく、途中でエネルギーを加える事もしていきます。

腕の振りから手首の連鎖時には、エネルギーは加えようとしてはいけないというのが当サイトの考えです。手首の筋力は使わず、リラックスさせておいて、腕の振りによって自然と手首が動くようにします。



 


エネルギーを加える運動連鎖は、「体で覚える」必要がある

連鎖の途中でエネルギーを加える際は、連鎖の前の部位からエネルギーが伝わってきたタイミングで次の部位の力を入れる必要があります。

ただし、効率的な連鎖を行えるためのタイミングは、人間には認識できないほどのとてつもなく短い時間になるので、意識的に「このタイミングで力を入れよう」と考えていては、上手く行うことができません。

ではどうすればいいかと言うと、タイミングを「体で覚えて」、考えなくても最適なタイミングで力を入れられるようになる必要があります。

体で覚えるというのは、もちろん比喩で、これをもう少し科学的に言うと、「反復練習することで、意識する事なく、半自動的に体が動くようになる事」です。ここでの「半自動的」とは、「特に意識しなければ、自動的に決まった一連の動作を行うが、意識すれば、その動作を途中で止めたり、動作を修正したりできる事」を意味しています。

実際の動作としては、エネルギーが連鎖していく順に各部位を動かしているのですが、意識してやろうとすれば、それができる訳ではありません。

 

体で覚えるために必要な事

それでは、運動連鎖を体で覚えるためには、どのような事をすればいいでしょうか。そのポイントを5つ紹介します。

1.正しいフォームを知ること
まず、正しいフォームを知り、どのような運動連鎖が必要なのかを把握することが重要です。正しいやり方を知らずにやみくもに練習していては、なかなか上手な運動連鎖ができるようになりません。

2.威力のあるショットを打とうとすること
威力の無いショットの場合であれば、腕や手首の力だけでも打つ事も可能ですので、そもそも強いショットを打つ気が無い場合、なかなか強打をするために必要な運動連鎖を習得できません。

3.コントロール、結果にこだわらない
最初のうちは、コントロール、結果にこだわらないようにしてください。特に、初心者の場合は、ボールの軌道を予測し、ラケットにボールを当てるだけで精一杯で、さらに運動連鎖とコントロールを同時に練習というのは、難易度が高すぎます。ラリー練習のように相手がいる場合、どうしてもコントロールに気を取られる事になるので、まずは素振り、その後球出し練習など、打った球の軌道を気にしない方法で、運動連鎖を習得していくことをおススメします。

4.力を抜いておくこと
連鎖の前の部位からのエネルギーが伝わるまで筋肉をリラックスしておくことです。特に力みやすいのは肩から指先にかけての部分です。ラケットを強く握っていると腕全体にかけて力みやすいので、できる限り握力を抜き、必要最低限の力でラケットを握るように意識してみてください。力んでいると、ムチのような柔らかさのある動作にならず、体が固まって全部一緒に動くような動作になってしまい、連鎖ができなくなります。

5.動かされる前に動かないこと
連鎖の前の部位に引っ張られたり、押し出されてから動き出すようにします。前の部位から動かされる前に、次の部位が動いてしまうと連鎖できなくなります。

以上のポイントを踏まえて、練習を重ねれば効率的な運動連鎖を体で覚える事ができるはずです。

 

 

運動連鎖のデメリットとは

ショットの威力を上げるのに運動連鎖は必須ですが、運動連鎖にもデメリットが無い訳ではありません。デメリットは、エネルギーの移動に時間がかかる点です。ムチを振った時に手元の動きが先端に伝わるのに時間がかかるように、人間の体の場合もエネルギーの伝達にある程度の時間が必要です。

ですので、時間的に余裕があれば、運動連鎖をしっかり行いショットの威力を出そうとするのが普通ですが、余裕が無い場合は、運動連鎖を省略する必要があります



また、フォハンドストロークやサーブで最大限威力を出そうとするなら、足の力を使う必要がありますが、足の力を使うとショット1回あたりのエネルギーの消費はかなり増えます。

トッププロレベルでは、疲労を抑えるために、足の力を使わず体力を温存しておくという選択は、まずあり得ませんが、「ショットの威力は求めず、ミスのない粘りのテニスで勝ちに行きたい」という一般のベテラン、シニアの方であれば、足の力を使わないというのも一つの選択になります。



今回の重要ポイント

○ショットの威力を上げるためには、効率的な運動連鎖を習得する必要がある。運動連鎖により腕や手首の筋力だけでなく、もっと多くの筋力を活用できるようになるため、ラケットスピードを速くする事ができる。

○最終的に速くしたい場所から近い運動連鎖から習得していくべき。

○効率的な連鎖を行うために、筋肉を使うべきタイミングは、ほんの一瞬しかなく、意識してやるようだと、上手くできない。

○腕の振りから手首への連鎖時に、手首の筋力は使おうとせず、リラックスさせておく。

○運動連鎖のタイミングは「体で覚える」必要がある。体で覚えるとは「反復練習することで、半自動的に体が動くようになる事」。

○体で覚えるために重要なポイントは、1.正しいフォームを知ること 2.威力のあるショットを打とうとすること 3.コントロール、結果にこだわらない 4.リラックスしておくこと 5.動かされる前に動かないこと の5点。

○運動連鎖の欠点は、エネルギーの移動に時間がかかること。余裕が無いときは連鎖を省略する必要がある。